納豆に含まれる「ナットウキナーゼ」という酵素が、血栓を溶かす働きを持つことをご存知でしょうか。この記事では、ナットウキナーゼの発見から作用メカニズム、そして健康への応用まで、科学的根拠に基づいて詳しく解説します。
ナットウキナーゼとは
ナットウキナーゼ(Nattokinase)は、納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)が大豆を発酵させる過程で産生する酵素です。1980年代に須見洋行博士によって発見され、強力な血栓溶解作用を持つことが明らかになりました。
納豆特有のネバネバした糸の中に含まれており、納豆1パック(約50 g)には約1,000〜2,000 FU(Fibrinolytic Unit:線溶活性単位)のナットウキナーゼが含まれています。
血栓溶解のメカニズム
ナットウキナーゼの最も注目される作用は、血栓を溶かす「線溶作用(fibrinolytic activity)」です。その仕組みを詳しく見ていきましょう。
フィブリンの直接分解
血栓の主成分は「フィブリン」というタンパク質です。ナットウキナーゼは、このフィブリンを直接分解する酵素活性を持っています。研究によれば、ナットウキナーゼは体内の線溶酵素であるプラスミンよりも強力なフィブリン分解能力を持つことが示されています(Weng et al., 2017)。

体内の線溶系の活性化
ナットウキナーゼは、フィブリンを直接分解するだけでなく、体内に元々備わっている血栓溶解システムも活性化します。具体的には以下の作用があります。
1.プラスミノーゲンの活性化:プラスミノーゲンをプラスミンに変換し、体内の線溶活性を高める
2.t-PAの産生促進:組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)の産生を促進
3.PAI-1の分解:線溶を阻害するPAI-1(プラスミノーゲン活性化因子阻害物質)を分解し、血栓溶解を促進

血小板凝集の抑制
ナットウキナーゼは、血小板の凝集を抑制する作用も持っています。これにより、血栓の形成そのものを予防する効果が期待されます(Chen et al., 2018)。
科学的エビデンス
ナットウキナーゼの効果は、多くの科学的研究で実証されています。
動物実験での確認
ラットを用いた実験では、ナットウキナーゼの経口投与により、人工的に作られた血栓が有意に溶解されることが確認されています。また、その効果は投与後数時間持続することも示されました(Kurosawa et al., 2015)。
ヒト臨床試験
健康な成人を対象とした臨床試験では、ナットウキナーゼの摂取により、以下の効果が報告されています。
•血液凝固因子(フィブリノーゲン、第VII因子、第VIII因子)の減少
•血液粘度の低下
•血栓溶解活性の向上
これらの結果は、ナットウキナーゼが心血管疾患の予防に役立つ可能性を示唆しています(Hsia et al., 2009)。
ナットウキナーゼの摂取方法
納豆からの摂取
最も自然な方法は、納豆を食べることです。1日1パック(50g)の納豆を摂取することで、十分な量のナットウキナーゼを得ることができます。
注意点
ナットウキナーゼは熱に弱い酵素です。70℃以上に加熱すると活性が失われるため、納豆は加熱せずにそのまま食べることをおすすめします。
サプリメントからの摂取
納豆が苦手な方や、毎日摂取するのが難しい方には、ナットウキナーゼのサプリメントも選択肢の一つです。一般的には、1日あたり2,000FU程度の摂取が推奨されています。
摂取時の注意点
ナットウキナーゼは安全性の高い成分ですが、以下の点に注意が必要です。
抗凝固薬との併用
ワーファリンなどの抗凝固薬を服用している方は、ナットウキナーゼの摂取前に必ず医師に相談してください。納豆にはビタミンKも含まれており、ワーファリンの効果を減弱させる可能性があります。
手術前の摂取
手術の予定がある場合は、出血リスクを考慮して、手術の1〜2週間前からナットウキナーゼの摂取を控えることが推奨されます。
妊娠・授乳中の方
妊娠中や授乳中の安全性については十分なデータがないため、摂取を控えるか、医師に相談することをおすすめします。
まとめ
ナットウキナーゼは、納豆由来の強力な血栓溶解酵素であり、以下の作用を持っています。
•フィブリンの直接分解
•体内の線溶系の活性化
•血小板凝集の抑制
多くの科学的研究により、その効果が実証されており、心血管疾患の予防に役立つ可能性が示唆されています。日本の伝統的な発酵食品である納豆が、現代の健康維持に大きく貢献できることは、非常に興味深いことです。
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参考文献
•Weng, Y., et al. (2017). Nattokinase: An Oral Antithrombotic Agent for the Prevention of Cardiovascular Disease. International Journal of Molecular Sciences, 18(3), 523.
•Kurosawa, Y., et al. (2015). A single-dose of oral nattokinase potentiates thrombolysis and anti-coagulation profiles. Scientific Reports, 5, 11601.
•Chen, H., et al. (2018). Nattokinase: A Promising Alternative in Prevention and Treatment of Cardiovascular Diseases. Biomarker Insights, 13.
•Hsia, C.H., et al. (2009). Nattokinase decreases plasma levels of fibrinogen, factor VII, and factor VIII in human subjects. Nutrition Research, 29(3), 190-196.