はじめに:手作り味噌の魅力
味噌は、大豆、麹、塩を発酵させて作る、日本を代表する伝統的な調味料です。スーパーで手軽に買える味噌ですが、実は家庭でも意外と簡単に作ることができます。
手作り味噌の最大の魅力は、自分好みの味に調整できることと、発酵という生命の営みを身近に感じられることです。麹菌と乳酸菌が織りなす複雑な発酵プロセスを経て、大豆が深い旨味を持つ味噌へと変化していく様子は、まさに「食べる科学」の醍醐味と言えるでしょう。
この記事では、初心者でも失敗しない味噌の作り方を、発酵の科学的な仕組みとともに詳しく解説します。
味噌作りに必要な材料
基本の材料(出来上がり約2kg分)
•大豆:1kg(乾燥大豆)
•米麹:1kg(生麹または乾燥麹)
•塩:450g(大豆と麹の合計の約20〜22%)
•種水(大豆の煮汁):適量
道具
•大きな鍋(圧力鍋があると便利)
•ボウル
•マッシャーまたはフードプロセッサー
•保存容器(陶器、ホーロー、プラスチック製など)
•重石(1〜2kg)
•ラップまたは和紙
味噌作りの手順
1. 大豆を洗い、水に浸す
乾燥大豆をよく洗い、たっぷりの水に一晩(約18時間)浸けます。大豆は水を吸って約2.5倍の大きさに膨らむので、大きめのボウルを使いましょう。
2. 大豆を煮る
水に浸けた大豆を、新しい水で柔らかくなるまで煮ます。
•普通の鍋の場合:3〜4時間、弱火でコトコト煮ます。アクを取りながら、水が減ったら足します。
•圧力鍋の場合:加圧後、約20〜30分で柔らかくなります。
大豆が親指と小指で簡単につぶれるくらいの柔らかさになったら完成です。煮汁は捨てずに取っておきます(種水として使います)。
3. 大豆をつぶす
煮た大豆を熱いうちにマッシャーやフードプロセッサーでつぶします。粒が残っていても大丈夫ですが、滑らかな味噌がお好みなら、しっかりつぶしましょう。
4. 塩切り麹を作る
麹と塩をボウルに入れ、手でよく混ぜ合わせます。これを「塩切り麹」と呼びます。塩が麹全体に均一に行き渡るようにしましょう。
5. 大豆と塩切り麹を混ぜる
つぶした大豆が人肌程度(約40℃)まで冷めたら、塩切り麹を加えてよく混ぜ合わせます。固すぎる場合は、種水を少しずつ加えて、味噌くらいの固さに調整します。

6. 味噌玉を作り、容器に詰める
混ぜ合わせた味噌を、ソフトボール大の「味噌玉」にして、保存容器に投げ入れます。これは、空気を抜くための大切な作業です。容器の底から隙間なく詰めていきましょう。
7. 表面を平らにし、空気を遮断する
味噌を詰め終わったら、表面を平らにならし、ラップや和紙で覆います。その上に重石を置きます。

8. 仕込み完了
容器の蓋をして、冷暗所で保存します。仕込んだ日付をラベルに書いておくと良いでしょう。
発酵のメカニズム:麹菌と乳酸菌の働き
味噌の発酵は、主に麹(こうじ)の科学で解説している麹菌の酵素と、乳酸菌の働きによって進行します。
麹菌の酵素の働き
麹に含まれる酵素(プロテアーゼ、アミラーゼ)が、大豆のタンパク質をアミノ酸に、デンプンを糖に分解します。このアミノ酸(特にグルタミン酸)が、味噌の旨味の正体です。
乳酸菌と酵母の働き
麹の酵素によって生成された糖を、乳酸菌や酵母が発酵させ、乳酸やアルコール、様々な香気成分を生み出します。これらが複雑に絡み合い、味噌独特の風味が生まれるのです。
この発酵プロセスは、ヨーグルトの発酵科学やキムチの発酵科学とも共通する、微生物の力を活用した素晴らしい例です。
発酵期間と熟成
味噌は、仕込んでから最低でも3ヶ月、通常は6ヶ月〜1年ほど発酵・熟成させます。
•夏場(6〜8月)に仕込んだ場合:3〜6ヶ月で食べられます。
•冬場(12〜2月)に仕込んだ場合:6ヶ月〜1年かかります。
発酵が進むにつれて、味噌の色が濃くなり、風味が深まっていきます。途中で味見をして、自分好みの熟成度合いを見つけるのも楽しみの一つです。
よくあるトラブルと対処法
トラブル1:表面にカビが生えた
原因:空気に触れた部分にカビが発生
対処法:カビの部分だけを取り除けば、下の味噌は問題なく食べられます。カビを防ぐには、表面にラップを密着させ、空気を遮断することが重要です。
トラブル2:水(たまり)が上がってきた
原因:発酵が進むと、水分が分離して表面に上がってきます(これを「たまり」と呼びます)
対処法:これは正常な現象です。たまりは旨味が凝縮されているので、捨てずに味噌と混ぜ込むか、調味料として使いましょう。
トラブル3:味が薄い
原因:塩分が少なすぎた、発酵が不十分
対処法:もう少し熟成期間を延ばしてみましょう。次回作る際は、塩の量を少し増やすと良いでしょう。
味噌の種類と麹の割合
麹の種類や割合を変えることで、様々な味噌を作ることができます。
•米味噌:米麹を使用。最も一般的な味噌です。
•麦味噌:麦麹を使用。香ばしい風味が特徴です。
•豆味噌:豆麹を使用。濃厚な旨味があります。
麹の割合を増やすと甘口に、減らすと辛口になります。詳しくは味噌の種類と使い分け:赤味噌・白味噌の違いをご覧ください。
味噌の健康効果
手作り味噌には、市販の味噌にはない、生きた酵素や乳酸菌が豊富に含まれています。
•腸内環境の改善:乳酸菌が善玉菌として働きます。
•消化吸収の促進:麹の酵素が消化を助けます。
•抗酸化作用:大豆由来のイソフラボンやサポニンが含まれます。
これらの健康効果は、納豆の驚くべき健康効果と同様に、発酵食品ならではの恩恵です。
まとめ
味噌作りは、一見難しそうに見えますが、基本的な手順を守れば、初心者でも美味しい味噌を作ることができます。大豆、麹、塩というシンプルな材料から、微生物の力によって複雑な旨味が生まれる過程は、まさに発酵の魔法です。
ぜひ、あなたも手作り味噌に挑戦して、日本の伝統的な発酵文化を体験してみてください。自分で作った味噌で作る味噌汁の味は、格別なものになるはずです。
関連記事
•キムチの発酵科学:乳酸発酵が生み出す健康効果と美味しさの秘密
参考文献
•マルコメ「手作り味噌の作り方」
•ハナマルキ「味噌作りの科学」
•全国味噌工業協同組合連合会

