自分で作った味噌の味は格別です。この記事では、初心者でも失敗しない味噌の作り方を、微生物学の視点を交えながら詳しく解説します。手作り味噌で、発酵生活を始めてみませんか?
味噌作りに必要な材料
味噌作りに必要な材料はたったの3つです。シンプルだからこそ、素材の質が仕上がりを左右します。
基本の材料(出来上がり約2kg分)
- 大豆:500g(乾燥状態)
- 米麹:500g
- 塩:200g(大豆+麹の20%)
覚えやすい黄金比は「大豆:麹=1:1」、「塩=大豆+麹の20%」です。この比率を守れば、初めてでも美味しい味噌が作れます。
甘くする場合は、米麹を2倍までを目安に増やしてください。
塩の量は変えません。
材料選びのポイント
大豆: 国産の大粒大豆がおすすめです。味噌が日本の文化・歴史に根ざした技術であるため、国産大豆は味噌に適した成分バランスと品質を持つことが多いです。
米麹: 生麹(なまこうじ)が理想的ですが、乾燥麹でも問題ありません。Aspergillus oryzae(麹菌)が生きている新鮮なものを選びましょう。
塩: 天然塩や海塩がおすすめです。精製塩でも作れますが、ミネラル豊富な塩の方が風味が良くなります。

味噌作りの手順
ステップ1:大豆を水に浸ける(前日)
大豆をよく洗い、たっぷりの水に浸けます。大豆は水を吸って約2.5倍に膨らむので、大きめの容器を使いましょう。
浸水時間: 最低12時間、できれば18〜24時間
ステップ2:大豆を煮る(約3〜4時間)
浸水した大豆を、たっぷりの水で柔らかくなるまで煮ます。圧力鍋を使えば時間を短縮できます。
煮上がりの目安: 指で簡単につぶせる柔らかさ
煮汁は捨てずに取っておきましょう。後で味噌の固さを調整するのに使います。
ステップ3:大豆をつぶす
煮上がった大豆を熱いうちにつぶします。マッシャー、フードプロセッサー、または厚手のビニール袋に入れて手でつぶす方法があります。
ステップ4:塩と麹を混ぜる(塩切り)
ボウルに米麹と塩を入れ、よく混ぜ合わせます。この作業を「塩切り」と呼びます。塩が麹全体に均一に行き渡るようにしましょう。
ステップ5:大豆と麹を混ぜ合わせる
つぶした大豆が人肌程度(約40℃以下)に冷めたら、塩切りした麹と混ぜ合わせます。
固さの調整: 耳たぶくらいの柔らかさが理想です。固い場合は、大豆の煮汁を少しずつ加えて調整します。

ステップ6:味噌玉を作って容器に詰める
混ぜ合わせた味噌を野球ボール大に丸めて「味噌玉」を作り、容器に投げ入れるように詰めていきます。これにより空気が抜け、カビの発生を防ぎます。
全て詰め終わったら、表面を平らにならし、ラップを密着させて空気を遮断します。
ステップ7:重石をして保管
ラップの上に重石(味噌の重さの10〜20%程度)を置き、蓋をして冷暗所で保管します。
保管場所: 直射日光が当たらない、温度変化の少ない場所(15〜25℃が理想)

発酵期間と熟成
味噌の発酵には時間がかかります。焦らずじっくり待ちましょう。
発酵のメカニズム
味噌の発酵は、主にAspergillus oryzae(麹菌)が生産する酵素によって進みます。
1.タンパク質の分解:大豆のタンパク質がアミノ酸に分解され、旨味が生まれます
2.デンプンの分解:米のデンプンが糖に分解され、甘みが生まれます
3.色の変化:メイラード反応により、徐々に褐色に変化します
熟成期間の目安
- 夏仕込み(6月頃):3〜6ヶ月で完成
- 冬仕込み(1〜2月頃):6〜12ヶ月で完成
温度が高いほど発酵が早く進みますが、ゆっくり熟成させた方が風味が良くなります。

発酵中の管理
天地返し(任意)
発酵開始から3〜6ヶ月後に、味噌を上下に混ぜ返す「天地返し」を行うと、発酵が均一に進みます。ただし、必須ではありません。
カビ対策
表面に白いものが生えることがありますが、「産膜酵母」か「カビ」かを見極めることが大切です。
白いものの見分け方
- 産膜酵母(さんまくこうぼ):味噌の表面に付く白い酵母で、立体的になることもありますがフワフワしていません。体に害はありませんが、風味を悪くするため取り除きます。

- カビ:青、緑、黒など様々な色で、フワフワと立体的に生えているものが該当します。これらは見た目だけでなく、菌糸が深く根を張っているため、カビの部分よりさらに大きく取り除く必要があります。


- チロシン:大豆のたんぱく質が熟成してできるアミノ酸の結晶で、白い斑点状に見え、ざらざらとした感触があります。味噌を作る過程で自然にできるもので、体に害はなく食べても問題ありません。

カビを防ぐコツ
- 表面にラップを密着させる
- 容器の内側をアルコールで拭く
- 塩を表面に薄く振る
完成の見極め方
以下のサインが出たら、味噌の完成です。
- 色が濃い茶色になっている
- 味噌らしい香りがする
- 味見して美味しいと感じる
完成したら、冷蔵庫で保管すると発酵が緩やかになり、風味が保たれます。
手作り味噌の楽しみ方
味噌汁
やはり定番は味噌汁です。自分で作った味噌の味噌汁は、市販品とは比べ物にならない深い味わいです。
味噌漬け
野菜や肉、魚を味噌に漬け込むと、発酵の力で旨味が増します。
味噌ディップ
味噌にマヨネーズや練りごまを混ぜて、野菜スティックのディップにするのもおすすめです。
まとめ
味噌作りは、材料3つでできるシンプルな発酵食品作りです。
- 大豆、麹、塩の黄金比は「1:1:0.2」
- 大豆を柔らかく煮て、麹と混ぜるだけ
- 3〜12ヶ月の熟成で完成
- 麹菌の酵素が旨味を生み出す
手作り味噌は、市販品にはない深い味わいと、作る楽しみがあります。ぜひ挑戦してみてください。
関連記事
参考文献
•Kusumoto, K. I., et al. (2021). Japanese Traditional Miso and Koji Making. Journal of Fungi, 7(7), 579.
•Allwood, J. G., et al. (2021). Fermentation and the microbial community of Japanese koji and miso. Journal of Food Science, 86(6), 2194-2207.