発酵食品を作っていると、ある日突然、表面に白い膜や黒い斑点、緑色のふわふわしたものが現れることがあります。「これはカビ?食べても大丈夫?それとも全部捨てるべき?」と不安になった経験はありませんか。
実は、発酵食品に生えるカビには、食べられるカビと危険なカビがあります。有用なカビは発酵食品の風味を豊かにする一方で、有害なカビは健康被害を引き起こす可能性があります。
この記事では、味噌、糠床、チーズなどの発酵食品に生えるカビの種類を科学的に解説し、見分け方と対処法を詳しくご紹介します。
カビは微生物の一種
カビは真菌(しんきん)と呼ばれる微生物の一種です。発酵食品には、有益なカビ(麹カビなど)と有害なカビ(毒素を作るカビ)の両方が存在する可能性があります。
カビの基本知識
カビを正しく見分けるには、カビの基本的な性質を理解することが重要です。
カビとは何か
カビは真菌(しんきん)と呼ばれる微生物の一種で、胞子を作って繁殖します。カビの胞子は空気中に漂っており、食品に付着すると増殖を始めます。
カビの特徴
- 胞子で繁殖:目に見えない胞子が空気中を漂う
- 菌糸を伸ばす:食品の内部に菌糸(根のようなもの)を伸ばす
- 色がある:白、緑、黒、青など、様々な色がある
- 湿気を好む:水分が多い環境で増殖しやすい
発酵食品とカビの関係
発酵食品には、有益なカビと有害なカビの両方が存在する可能性があります。
| カビの種類 | 代表例 | 発酵食品 | 安全性 |
|---|---|---|---|
| 有益なカビ | 麹カビ(Aspergillus oryzae) | 味噌、醤油、日本酒 | 安全 |
| 有益なカビ | 白カビ(Penicillium camemberti) | カマンベールチーズ | 安全 |
| 有益なカビ | 青カビ(Penicillium roqueforti) | ブルーチーズ | 安全 |
| 有害なカビ | 黒カビ(Aspergillus niger) | 腐敗した食品 | 危険 |
| 有害なカビ | 緑カビ(Penicillium 属の一部) | 腐敗した食品 | 危険 |
色で見分けるカビと酵母
発酵食品の表面に現れる白いものや緑色のものは、見た目だけでは判断が難しいことがあります。ここでは、色と質感で見分ける方法を解説します。
白い膜状のもの(産膜酵母)
特徴
- 表面に薄く広がる膜状
- ふわふわしていない、滑らかな質感
- 匂いは発酵臭に近い
- 白色または薄いクリーム色
正体
これは産膜酵母(さんまくこうぼ)と呼ばれる酵母の一種です(Pichia 属やCandida 属など)。カビではなく、酵母です。
安全性
産膜酵母は無害です。ただし、風味が落ちるため、取り除くことを推奨します。
対処法
- 表面を薄く(1〜2cm)取り除く
- 残りは食べられる
- 温度を下げて保存する(冷蔵庫に移す)
産膜酵母と白カビの見分け方
産膜酵母:表面に薄く広がる膜状で、ふわふわしていない。匂いは発酵臭に近い。
白カビ:ふわふわした綿のような質感。カビの生え始めは白く見えることがあり、まだ胞子を形成していない段階です。時間が経つと緑や黒に変色する可能性があります。
白くふわふわしたもの(白カビ)
特徴
- ふわふわした綿のような質感
- 表面に盛り上がって生える
- 時間が経つと緑や黒に変色することがある
正体
白カビは、カビの生え始めの段階であることが多く、まだ胞子を形成していない状態です。時間が経つと、緑色や黒色の胞子を作り始めます。
安全性
注意が必要です。チーズ製造で使用される白カビ(Penicillium camemberti)は安全ですが、意図せず生えた白カビは有害な可能性があります。
対処法
- 小さな範囲なら、深く(3〜5cm)取り除く
- 広範囲に生えた場合は、廃棄を推奨
- 時間が経つと緑や黒に変色する可能性があるため、早めに対処
緑色のカビ
特徴
- 鮮やかな緑色
- 粉っぽい質感
- 広範囲に広がりやすい
正体
Penicillium 属のカビです。一部は有益(ブルーチーズのカビ)ですが、多くは有害です。
安全性
危険です。毒素(マイコトキシン)を作る可能性があります。
対処法
- 広範囲に生えた場合は、廃棄を推奨
- 小さな範囲なら、深く(3〜5cm)取り除く
- 菌糸が食品の内部に伸びている可能性があるため、注意
黒色のカビ
特徴
- 黒または濃い灰色
- ぬめりがある
- 不快な匂い
正体
Aspergillus niger(黒カビ)やCladosporium 属のカビです。
安全性
危険です。毒素を作る可能性が高いです。
対処法
- 廃棄を強く推奨
- 食品の内部まで菌糸が伸びている可能性が高い
- 食べないでください
黒カビは特に危険
黒カビは、アフラトキシンなどの強力な毒素を作ることがあります。少量でも健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、黒カビが生えた食品は廃棄してください。
ピンク色のカビ
特徴
- ピンクまたは赤色
- ぬめりがある
- 水回りに生えやすい
正体
Serratia marcescens(セラチア菌)です。カビではなく、細菌の一種です。
安全性
危険です。感染症を引き起こす可能性があります。
対処法
- 廃棄を推奨
- 容器をよく洗浄・消毒する
発酵食品別のカビ対処法
発酵食品によって、カビの対処法が異なります。
味噌
白い膜状のもの(産膜酵母)
- 表面を薄く(1〜2cm)取り除く
- 残りは食べられる
白くふわふわしたもの・緑・黒のカビ
- 小さな範囲なら、深く(3〜5cm)取り除く
- 広範囲に生えた場合は、廃棄を推奨
糠床
白い膜状のもの(産膜酵母)
- 表面を薄く取り除く
- よくかき混ぜる
- 塩を追加する
白くふわふわしたもの・緑・黒のカビ
- 広範囲に生えた場合は、廃棄を推奨
- 糠床は再び作り直す
チーズ
白カビ・青カビ(製造時に使用)
- 安全に食べられる
- カマンベールチーズ、ブルーチーズなど
緑・黒のカビ(意図しないカビ)
- ハードチーズ:カビの部分を深く(2〜3cm)切り取る
- ソフトチーズ:廃棄を推奨
パン
すべてのカビ
- 廃棄を推奨
- パンは柔らかいため、菌糸が内部まで伸びやすい
- カビが生えた部分だけ取り除いても、安全ではない
カビを防ぐための予防策
カビの発生を防ぐには、以下の予防策が効果的です。
温度管理
冷蔵保存(5〜10°C)
カビの増殖速度が遅くなります。完成後の発酵食品は、冷蔵保存を推奨します。
空気との接触を最小限に
ラップで表面に密着
空気との接触を減らすことで、カビの胞子が付着しにくくなります。
塩分濃度を保つ
適切な塩分濃度(10〜13%)
塩分が高いと、カビの増殖が抑えられます。糠床や味噌は、塩分濃度を保つことが重要です。
清潔な環境
容器の消毒
使用前に熱湯消毒またはアルコール消毒をします。
手を清潔に
発酵食品を触る前に、手をよく洗います。
定期的な観察
週に1回程度
発酵食品の状態を定期的に確認し、カビが生えていないかチェックします。
| 予防策 | 効果 | 適用例 |
|---|---|---|
| 冷蔵保存 | カビの増殖速度を遅らせる | 味噌、糠床、チーズ |
| ラップで密着 | 空気との接触を減らす | 味噌、糠床 |
| 塩分濃度を保つ | カビの増殖を抑える | 糠床、味噌、キムチ |
| 容器の消毒 | 雑菌の混入を防ぐ | すべての発酵食品 |
| 定期的な観察 | 早期発見・早期対処 | すべての発酵食品 |
まとめ
発酵食品に生えるカビは、色と質感で見分けることができます。白い膜状のもの(産膜酵母)は無害ですが、白くふわふわしたもの(白カビ)や緑・黒のカビは危険です。カビが生えた時は、色と質感を確認し、適切に対処しましょう。
この記事のポイント
- 白い膜状のものは無害:産膜酵母は取り除けば食べられる
- 白くふわふわしたものは注意:カビの生え始めの可能性があり、時間が経つと緑や黒に変色することがある
- 緑・黒のカビは危険:毒素を作る可能性があるため、廃棄を推奨
- チーズのカビは例外:製造時に使用されるカビは安全
- パンのカビは廃棄:菌糸が内部まで伸びやすい
- 予防が重要:温度管理、空気との接触を最小限に、清潔な環境
参考文献
- 小泉武夫(2018)『発酵』中公新書
- 石川伸一(2020)『発酵の科学』講談社ブルーバックス
- 日本食品微生物学会(2020)『食品微生物学の基礎』講談社サイエンティフィク
- 厚生労働省(2021)「食品衛生法に基づくカビ毒の規制」
- 農林水産省(2020)「カビとカビ毒に関する情報」

