「ぬか床が酸っぱくなりすぎた」「白いカビのようなものが生えてきた」「変な匂いがする」…ぬか床を管理していると、こうしたトラブルに遭遇することがあります。でも、心配はいりません。
この記事では、ぬか床でよくあるトラブルとその原因、そして科学的根拠に基づいた対処法を詳しく解説します。微生物の働きを理解すれば、トラブルも怖くありません。
ぬか床トラブルの原因:微生物のバランスが崩れるとき
ぬか床のトラブルの多くは、微生物のバランスが崩れることが原因です。乳酸菌、酵母、酪酸菌などの微生物は、適切な環境で共生していますが、温度、塩分、水分、酸素などの条件が変わると、バランスが崩れてしまいます。
トラブルが起きたときは、「何が原因で微生物のバランスが崩れたのか」を考えることが、解決への第一歩です。
私の失敗経験
夏場にぬか床を常温で放置していたら、酸っぱくなりすぎて食べられなくなったことがあります。温度が高すぎて乳酸菌が増えすぎたのが原因でした。塩を足して冷蔵庫で管理したら、1週間で元通りになりました。
トラブル1:酸っぱくなりすぎた
原因
乳酸菌が増えすぎて、乳酸が過剰に生成されている状態です。温度が高い、かき混ぜ不足、塩分不足などが原因で起こります。
科学的背景
乳酸菌は25〜30℃で最も活発に活動します。夏場や暖かい場所に置いておくと、乳酸菌が急速に増殖し、pHが4.0以下になることがあります。この酸性度が強すぎると、ぬか漬けが酸っぱくなりすぎます。
対処法
| 対処法 | 効果 | 実施方法 |
|---|---|---|
| 塩を足す | 乳酸菌の活動を抑制 | 大さじ1〜2杯を加えてよく混ぜる |
| かき混ぜ回数を増やす | 酸素供給で酵母を活性化 | 1日2回、底からしっかり混ぜる |
| 卵の殻を入れる | カルシウムが酸を中和 | よく洗って乾燥させた殻を砕いて入れる |
| 冷蔵庫で管理 | 発酵速度を緩める | 10〜15℃で保存 |
予防のコツ
夏場は冷蔵庫で管理するのがおすすめです。発酵が緩やかになり、酸っぱくなりすぎるのを防げます。ただし、冷蔵庫に入れるとかき混ぜ頻度は2〜3日に1回でOKです。
トラブル2:水っぽくなった
原因
野菜から出た水分が多すぎる、または水分の多い野菜(きゅうり、トマトなど)を漬けすぎたことが原因です。
科学的背景
野菜を漬けると、浸透圧によって野菜の水分がぬか床に移動します。水分が多すぎると、塩分濃度が薄まり、雑菌が繁殖しやすくなります。また、微生物の活動も低下します。
対処法
- キッチンペーパーで水分を吸い取る:ぬか床の表面にキッチンペーパーを置き、余分な水分を吸収させます
- 米ぬかを足す:50〜100gの米ぬかを加えて、固さを調整します
- 水分の多い野菜を控える:トマト、きゅうりなどは漬けすぎないようにします
- 塩を足す:塩分濃度を10〜13%に保ちます
注意
水っぽくなったぬか床を放置すると、雑菌が繁殖して変な匂いがすることがあります。早めに対処しましょう。
トラブル3:白いカビ(産膜酵母)が生えた
原因
表面に白い膜のようなものが張るのは、産膜酵母が繁殖したためです。かき混ぜ不足や塩分不足が原因で起こります。
科学的背景
産膜酵母(Pichia属など)は、酸素を好む微生物で、ぬか床の表面に繁殖します。無害ですが、増えすぎると風味が悪くなることがあります。
対処法
- 白い部分を取り除く:スプーンで白い膜をすくい取ります
- 塩を足す:大さじ1杯程度を加えます
- 毎日しっかりかき混ぜる:底から大きくすくい上げるように混ぜます
- 容器の縁を拭く:清潔な布で容器の縁についたぬかを拭き取ります
産膜酵母は無害です
白いカビのように見えますが、産膜酵母は無害です。取り除いて塩を足せば、すぐに元通りになります。ただし、青や黒のカビは有害なので、広範囲に生えた場合はぬか床を作り直しましょう。
トラブル4:変な匂いがする
原因
雑菌の繁殖、古い野菜の残留、または酪酸菌が増えすぎたことが原因です。
科学的背景
ぬか床の底部では、酸素が少ないため酪酸菌が活動します。酪酸菌は健康効果がある一方で、増えすぎると「足の裏のような匂い」を発生させることがあります。
匂いの種類と対処法
| 匂いの種類 | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| 酸っぱい匂い | 乳酸菌の増えすぎ | 塩を足す、かき混ぜ回数を増やす |
| アルコール臭 | 酵母の増えすぎ | かき混ぜて酸素を供給、塩を足す |
| 足の裏のような匂い | 酪酸菌の増えすぎ | しっかりかき混ぜる、からし粉を加える |
| 腐敗臭 | 雑菌の繁殖 | 古い野菜を取り除く、塩を足す、場合によっては作り直す |
からし粉の効果
からし粉(小さじ1杯程度)を加えると、殺菌効果があり、変な匂いを抑えることができます。からしに含まれるアリルイソチオシアネートという成分が、雑菌の繁殖を抑制します。
トラブル5:ぬか漬けが美味しくない
原因
ぬか床が未熟、塩分濃度が適切でない、漬け時間が短すぎる・長すぎるなどが原因です。
対処法
- ぬか床を育てる:作りたてのぬか床は、2〜3週間かけて微生物を増やす必要があります
- 塩分濃度を確認:10〜13%が理想です。塩分濃度計で測定すると正確です
- 漬け時間を調整:きゅうりは12〜18時間、大根は24〜36時間が目安です
- 捨て漬けを続ける:最初の1〜2週間は、キャベツの外葉などで捨て漬けを続けます
美味しいぬか床の条件
- pH 4.0〜4.5(弱酸性)
- 塩分濃度 10〜13%
- 温度 20〜25℃
- 適度な水分(味噌くらいの固さ)
トラブル予防のための日常管理
トラブルを未然に防ぐには、日々の管理が重要です。
毎日のチェックポイント
| チェック項目 | 理想的な状態 | 対処が必要な状態 |
|---|---|---|
| 匂い | ほのかな酸味と米ぬかの香り | 強い酸臭、アルコール臭、腐敗臭 |
| 固さ | 味噌くらいの固さ | 水っぽい、固すぎる |
| 表面 | 平らで均一 | 白い膜、カビ |
| 色 | 薄茶色〜茶色 | 黒ずんでいる、緑色 |
便利な道具
- pH試験紙:酸性度を数値で確認できる(pH4.0〜4.5が理想)
- 塩分濃度計:塩分濃度を正確に測定できる
- 温度計:ぬか床の温度を管理できる
まとめ
ぬか床のトラブルは、微生物のバランスが崩れることで起こります。でも、原因を理解して適切に対処すれば、ほとんどのトラブルは解決できます。
この記事のポイント
- 酸っぱくなったら:塩を足す、かき混ぜ回数を増やす、冷蔵庫で管理
- 水っぽくなったら:キッチンペーパーで水分を吸い取る、米ぬかを足す
- 白いカビが生えたら:取り除いて塩を足す、毎日かき混ぜる
- 変な匂いがしたら:原因を特定して対処、からし粉を加える
- 予防が大切:毎日のチェックと適切な管理でトラブルを防ぐ
トラブルを恐れずに、ぬか床作りを楽しんでください。失敗も経験のうちです。
参考文献
- 小泉武夫(2018)『発酵』中公新書
- 石川伸一(2020)『発酵の科学』講談社ブルーバックス
- 農林水産省(2021)「日本の伝統的発酵食品」
- 日本醸造協会(2019)『醸協』第114巻「ぬか漬けの微生物叢解析」
- 東京農業大学(2020)「発酵食品のトラブルシューティング」応用生物科学部研究報告

